岩谷産業のアメリカ子会社、岩谷コーポレーション・アメリカが同地にてノルウェーの「Nel社」に対して損害賠償請求を起こしています。控えめに言って、訴状の中身から激怒っぷりが伝わってきます。Nel社は水素ステーションにおける水素充填装置を製作するメーカーなのですが、Hydrogen Insightが閲覧した訴状によると、Nel社はカリフォルニア市場向けに7つのH2ステーションを販売する前に「実際の商業環境でテストしていなかった」と岩谷産業側は主張しているそうです。

そのほか、岩谷が主張しているのはかいつまむと以下のとおりです。

1.契約の構造は機器の問題に関してはNel社だけが可視性を持つようになっており、その点で問題がある
2.水素充填機器の欠陥を隠し、問題が発生した場合、顧客が受け取れる情報には制限があり、顧客の費用で実証実験を行っているも同然
3.水素ステーションの管理システムおよびシステム開発は納入時には未完成で、岩谷コーポレーション・アメリカが知らぬ間にリモートで機器の運用をしている際もコードを書いている途中だった
4.Nel社は自らの実績を不正確に示しており、他の企業に販売された機器は「実際には欠陥があり、絶え間ない故障と障害に悩まされ、壊滅的な運用実績で顧客は何百万ドルもの損失を与えた」
5.Nel社の営業およびマーケティング資料が、実績を不正確に示していた。資料内の従業員数、時価総額、およびそのすべての子会社にわたる技術展開に言及しており、水素ステーションビジネスのものを示しているわけではなかった
6.競合他社は水素ステーション運用マニュアルは概ね1000ページに及ぶにもかかわらず、Nel社が提供していたものは約30ページに過ぎず制御システムやソフトウェアに関するものは提供されなかった。結果的に水素ステーションで起ったエラー、警告、コードを理解ができず、運用停止に追い込まれた

Nel社の子会社、Nel Hydrogen社(当時、H2 Logic A/S)は2017年に、水素圧縮技術を提供されていたPDC社から知的財産権侵害で訴えられていました。翌年には非公開の金額にて和解し、その後、Nel社がH2 Logicを3000マンドルで買収。また、生産キャパシティを上げるために1000万ドルを投入し、Nel社は投下資金回収のプレッシャーがあった、とも岩谷コーポレーション・アメリカは指摘しています。

また、そもそもPDC社の圧縮機を用いていたNel社の水素ステーションでも「深刻な問題と故障」が発生していた、とも指摘されています。PDC社の水素圧縮機は500バールでも問題があったのに、Nel社の自社製品で1000バールでの圧縮となれば未然にその“難関”を予見できたはずだ、とも。

岩谷コーポレーション・アメリカの社内調査では、Nel社が納入した水素充填機ではダイアフラム圧縮機の「キャビティ・スタック」が、少なくとも12回、ハワイアンガーデンズの現場で、多くの場合で1,000時間未満で故障したと主張しています。また、部品交換が仕様書で主張されている「数時間」ではなく、1週間もの時間を要したそうです。

そのほか岩谷コーポレーション・アメリカが指摘しているのは、水素充填機に用いられているバルブが本来の用途とは異なるものなばかりか、Nel社によって独自改造が施されていて交換できるのはNel社のみ、となっていたそうです。そんなこんなで岩谷コーポレーション・アメリカが展開する、アメリカ各地の水素ステーションの稼働率は低迷し、激怒しているわけです。無理もありません。

一部、岩谷コーポレーション・アメリカの主張はデューデリジェンス不足かなぁ、と思わせる点があるのも事実ですが、Nel社は大活躍していましたからねぇ・・・。

なお、アメリカ・カリフォルニア州においてシェルが展開していた7つの水素ステーションのうち、乗用車向けの6箇所の閉鎖がつい最近、発表されました。また、カリフォルニア州内において48箇所の水素ステーション設置する計画も白紙になりました。奇遇にも、シェルが採用していた水素充填機にもNel社のものだったんですよね。

水素ステーションの拡充が図られないまま、このようなトラブルを抱え、現在、カリフォルニア州のトヨタ・ディーラーでは2023年モデルの新車が4万ドル引きで販売されているそうですよ・・・。破格過ぎて、買わないと損だと思ってしまうような在庫処分セールです。

なお、Nel社は岩谷コーポレーション・アメリカの訴えを真っ向から反論する意向とのことです。