サリーン・オートモーティブ(以下、サリーン)は1983年、元レーサーのスティーブ・サリーンによってアメリカ・カリフォルニア州に設立されました。創業当初からモータースポーツへの参戦を目指し、1984年にはサリーン・レーシングを立ち上げてレース活動を開始。1986年には自社初のレースカー「サリーン・ムスタング」を製作。同年のSCCA製造車24時間レースで総合優勝を果たすなど、短期間で存在感を示しました。
2000年に自社初の量産スポーツカー「サリーン S7」を発表。ミッドシップにV8エンジンを搭載したこのモデルは、最高時速329km/hを誇る高性能車でした。S7は一般道路での走行が可能な「ストリートバージョン」と、サーキット専用の「レースバージョン」をラインナップ。2001年にはル・マン24時間に参戦し、注目を浴びたことが記憶に新しいです。
自社の量産スポーツカーの生産・販売やモータースポーツでの活躍からブランドイメージを確立させ、サリーン・ブランドのチューニング需要やパーツ販売に繋げていく、というビジネスモデルです。そんなサリーン、2002年にはフォードGTの組立ならびに塗装のを受託したほか、2007年にはダッジ・バイパーの塗装も受託。2013年にはリバースバージャーというカタチでOTCブリティンボードにて公開を果たしました。
2014年には中国へ進出し、テスラ・モデルSをベースにしたコンプリートカー「416」の発売を開始しました。なお、416はアメリカの警察無線における10コードで「Fight」を意味するものです。サリーンの過去の内部事情は定かではありませんが早い話、大幅な赤字に追い込まれ、2015年には100万ドル以上の出資者にはサリーン・ムスタングをプレゼントするという奇策を打ち出すも、2017年には上場基準を維持できず上場廃止。
時期同じくして2017年、サリーンは中国江蘇省如皋市とともに、江蘇賽麟汽車技術集団有限公司(Jiangsu Saleen Automotive Technology Group Co., Ltd.)を設立し、中国市場向けに生産・販売を開始することを発表しました。実際、2019年7月にはシティーカーとクロスオーバーSUVの電気自動車を発表するまでこぎつけたのですが、同社の中国人幹部が政府から支援された開発資金を水増し請求、偽装出資、挙句の果てには横領していたことが内部告発され、同社は事実上の解体。
そんなサリーンですが、つい先日、フランスの「ソリューションF」(GCK傘下:クリーンエネルギー動力源へのレトロフィットを得意とする会社)という会社が開発した水素内燃式V6ツインターボエンジン(フェニックスH2という車両に搭載)の供給を受けて、市販水素内燃式スポーツカーの製作に着手したことが発表されました。
ソリューションFは設立から40年が経つ少数精鋭の技術開発集団で自動車のエンジン開発はもちろん、航空機、ヘリコプター、移動式水素充填機とその守備範囲は広いです。今年後半には完成予定だそうですが・・・、詳細はほとんど不明瞭なままの発表です。なお、ソリューションFのフェニックスH2は先日のル・マン24時間にてデモ走行が披露されました。
ちょっとサリーンのホームページを覗いてみると絶賛、未公開株式販売中です。しかも6月18日までに株式を引き受ければ15%株式割り増し(!)中だそうです。あまりに気になるので目論見書にちょっと目を通してみると・・・、サリーンほど名の知れた会社でも内情は相当苦しそうです。どうなることやら・・・。