ロサンジェルス・タイムズ(以下、LAタイムズ)に興味深い記事が掲載されていました。トヨタに対して集団訴訟を提起したトヨタ・ミライ・オーナーたちを取材していました。

2022年、ライアン・キスキスさんはトヨタ・ミライを購入し、とても喜んでいました。最先端の水素燃料電池技術を環境保護に活用できると考えたからです。「素晴らしい車です」と彼は語ります。エンジニアとして、自動車好きとして、彼は世界がようやく温室効果ガス削減に向けて動き出したと感じたのです。

しかし、現実はそう甘くありませんでした。水素ステーションが少なく、しかも信頼性に欠けることがすぐに分かりました。ステーションの状況を知らせるアプリも正確ではありません。カリフォルニア州は2025年までに200箇所のステーション設置を目指していましたが、現在わずか54箇所しかありません。さらに、キスキスさんが車を購入して以来、水素の価格は2倍以上に跳ね上がり、ガソリン換算すると1ガロン15ドルにもなっています。

一見、トヨタとは無関係な問題に思えますが、「水素燃料ステーションの不足や水素燃料の不足を知りながら、トヨタはこれらの問題を広告、マーケティング、販売、リースで開示していない」と原告側は主張しています。

また、購入者向けインセンティブとして1万5,000ドル相当の水素充填用デビットカードが配られ「5年は持つ」と謳われたいたそうですが・・・、水素価格の高騰で「虚偽広告」であった、とも・・・。さすがに水素価格はトヨタのコントロール下にはないとは思いますが、訴訟は原告側の言いたい放題ですからね。

水素充填が高額かつ水素ステーションの稼働も当てにならないため、キスキスさんは近所の短い移動以外は、ガソリン車のジープを使っています。「素晴らしい車が車庫で眠っているのです」と彼は嘆きます。

同じような経験をしたのが、退職者のブライアン・カルーウェさんです。2022年にミライを購入し、車自体は気に入っていますが、「とにかく不便です」と言います。水素ステーションは「故障中か、燃料切れか、シェルの場合は完全に撤退してしまいました」。北ハリウッドで印刷店を経営するアーヴィング・オールデンさんも同様です。ミライをリースし、車は気に入っていますが、充填システムには不満を抱えています。

というわけで、上記3名を筆頭に集団訴訟が提起され原告は現在24人に達し、さらに増加しているそうです。訴状を要約してみると、以下がポイントになるようです。

【トヨタ・ミライの水素燃料供給に関する問題】
水素燃料の深刻な不足
充填ステーションの頻繁な故障や燃料切れ
予想以上に長い充填時間

【トヨタによる誤解を招く情報提供】
水素燃料の入手しやすさについて誤った情報を提供
実際の走行距離が公表値より100マイル程度少ない

【水素燃料価格の急騰】
2022年の約13ドル/kgから2024年には約36ドル/kgと2倍以上に上昇
提供された15,000ドル分の燃料カードが約束の5年間持たない

【消費者への影響】
車両が使用できない、または長距離移動が困難
予想外の高額な燃料費負担
車両の再販価値の大幅な低下(5年後の価値保持率がわずか19.4%)

【最大の争点】
トヨタの販売・マーケティング手法が虚偽広告や詐欺的行為に該当する可能性
消費者(原告)が損害を被っており、訴訟を起こしている

キスキスさんは、トヨタの営業スタッフに騙されたと感じていると同時に「カリフォルニア州の監督不足にも同じくらい腹が立ちます」と述べています。カリフォルニア州は2025年までに200箇所のステーション設置を目指していましたが、現在わずか54箇所しかありません。なお、トヨタはこの件について「顧客満足に尽力しており、最善のサポート方法を検討し続けます。訴訟の申し立てには適切に対応します」とコメント。

燃料電池車も電気自動車も・・・、結局は「インフラ整備」という大きな壁が立ちはだかっています。J.D. Powerの最近の調査によると、消費者がEVを購入しない最大の理由は公共充電器の不足だそうです。「公共充電インフラへの懸念は悪化の一途をたどっている」と結論づけています。

カフォルニア州では燃料電池車の販売も落ち込んでいます。2023年上半期には1,765台だった販売台数が、今年の上半期はわずか298台。水素ステーションの整備や価格の問題が解決されない限り、カリフォルニア州が目指す「2045年までにカーボンニュートラル」達成は前途多難な雰囲気が・・・。