石油・ガス大手BPが2024年第3四半期の決算報告において、18の初期段階水素プロジェクトからの撤退を発表しました。この決定は、新興の水素産業全体に深刻な影響を与える可能性が指摘されています。

同社の2024年第3四半期(7-9月)の純利益は23億ドルにとどまり、前年同期比で30%の大幅減少となりました。株価も同四半期中に18%以上下落し、年間債務は9%増加したことが報告されています。

この状況を受け、BPは米国の陸上風力発電事業の売却とともに、水素関連プロジェクトの75%を中止することを決定。この戦略転換により、再生可能エネルギーと水素部門で年間約2億ドルのコスト削減を見込んでいるそうです。

マレー・オーチンクロスCEOは決算発表において、「ポートフォリオ全体で競争力のある収益を今日もたらすビジネスを優先し続ける」と説明。短期的な収益性を重視する姿勢を明確にしました。BPは従来、水素エネルギーの推進に積極的な姿勢を示してきた企業の一つでした。同社のベンチャーキャピタル部門は、Electric HydrogenAdvanced Ionicsなどのグリーン水素スタートアップに投資を行い、今年初めには米国、欧州、オーストラリアで10以上のプロジェクト展開を表明していました。

しかし今回の決定により、開発プロジェクト数は5〜10に縮小される見通しとなったわけです。具体的にどのプロジェクトが継続されるかについて、同社は現時点で明らかにしていません。

水素は、石油化学精製、製鉄、長距離海運など、幅広い産業における炭素排出削減に貢献する可能性を持つクリーンエネルギーとして注目されています。特に、再生可能電力を使用して生産される「グリーン水素」は、燃料電池での使用時に水蒸気のみを排出する環境負荷の低いエネルギー源として期待されています。

ただ、その実用化には依然として高いハードルが存在するのも事実です。特にグリーン水素は、現時点で最も生産コストが高い水素製造方式であり、輸送コストも化石燃料と比較して割高となっています。また、必要なインフラの整備も遅れている状況が指摘されています。

水素産業は、インフラ整備や技術開発において、石油・ガス企業の資金力とノウハウに大きく依存してきました。というのも、精製所で天然ガスからの水素製造を行っており、電解槽を開発するスタートアップにとって重要な顧客となっています。また、大規模インフラプロジェクトの開発経験も豊富です。

一方で、今回のBPの決定は、石油・ガス企業が依然として化石燃料ビジネスを重視し、代替エネルギーへの移行に慎重な姿勢を示していることを浮き彫りにしました。専門家からは、この動きが業界全体に波及する可能性を指摘する声も上がっています。

BPの撤退決定にもかかわらず、水素エネルギーへの期待は依然として高いと言えるでしょう。EUイノベーション基金は約30の水素プロジェクトに48億ユーロの資金提供を決定し、米国エネルギー省も24州にわたる52のクリーン水素プロジェクトに7億5000万ドルを投じています。

頑張れ、水素!