電気自動車の普及速度に比べて、水素車両(燃料電池や水素燃焼エンジン搭載車)の普及は遅れている感が漂っているのは否めません。電気自動車は電気モーターならではの圧倒的な加速力、太陽光発電由来の発電など、ポジティブなイメージが“沸きやすい”のでしょう。でも、着々と水素を燃料とした乗り物の研究開発は進められています。

今月、ドイツで話題を呼んだのは「H2FLY」という航空機用水素電気パワートレイン・システムを開発メーカーによる液体水素を燃料としたテスト機の試験飛行です。燃料電池を動力源とした航空機の試験飛行はチラホラ話題になっていますが、液体水素は世界初です。

H2FLYチームは試験飛行の一環として、液体水素を動力源とする4回の飛行を遂行。飛行には、水素電気燃料電池推進システムと極低温貯蔵された液体水素を搭載したH2FLY社の「HY4」実証機が用いられました。

気体水素の代わりに液体水素を使用することで、HYの最大航続距離は750kmから1,500kmに倍増し、排出ガスゼロの中・長距離商業飛行の実現に向けた重要な一歩となる、とH2FLY社では謳っています。加圧気体水素貯蔵(GH2)に比べ、液化極低温水素(LH2)はタンク重量と容積を大幅に削減できるため、航空機の航続距離と有用な積載量の増加につながるんですね。

また、今回の試験飛行の成功はH2FLY社にとって重要なマイルストーンであり、航空機での液体極低温水素使用の実現可能性を実証するために結成された欧州政府支援のコンソーシアム、プロジェクトHEAVENの集大成でもあります。ちなみに当該コンソーシアムはH2FLY社が主導し、パートナーとしてエア・リキッド社、ピピストレル・バーティカル・ソリューションズ社、ドイツ航空宇宙センター(DLR)、EKPOフューエルセル・テクノロジーズ社、Fundación Ayesa社が参加しています。また、プロジェクトHEAVEN以外にも、ドイツ連邦経済・気候行動省(BMWK)、ドイツ連邦デジタル・運輸省(BMVD)、ウルム大学からの資金援助を受けたものだそうです。

H2FLY社は6月、高度27,000フィートまでの飛行でフルパワーを供給できる新型燃料電池システムH2F-175の開発を発表しています。そういう意味では、既に低高度での実行可能な飛行実証から実際の民間航空機への応用に向けた重要な一歩を踏み出しています。プロジェクトHEAVENでの試験飛行が完了したことで、H2FLY社は商業化への道に集中することになるでしょう。

また2024年、H2FLYはバーデン・ヴュルテンベルク運輸省の共同出資により、シュトゥットガルト空港に水素航空センターを開設する予定です。このセンターは、燃料電池航空機の統合施設と液体水素インフラを提供する、というので航空機における水素の活用への取り組みはかなり本気ですよ。

なお、H2FLY社は2021年、商用旅客サービス用の電気垂直離着陸(eVTOL)航空機を開発するジョビー・アビエーション(JOBY AVIATION)社に買収されています。さほど話題になりませんが、JOBY社にはトヨタ資本が入っており、個人的に注目している会社でもあります。

そんな水素にまつわる話題で国際エネルギー機関(IEA)が気になるレポートを出しています。なんでも水素生成のための電解装置で中国が飛躍的な成長を遂げているとか・・・。電気自動車といい、水素関連技術といい、チャイナ・パワーが炸裂していますね。