VTOL(Vetical Take Off and Landing)は垂直離着陸機を意味します。つまりは広義のヘリコプターです。頭に「e」が付くものは“電動”を指しており今、最も熱い乗り物のトピックのひとつと言えるでしょう。なかには「空飛ぶクルマ」と記す人もいらっしゃるようですが・・・、あくまでも簡易版ヘリコプター(もしくはオスプレイ)というイメージのほうが実態に近いでしょう。

事の発端は・・・、恐らくUBERがぶちあげたeVTOLのライドシェア計画です。最近、ドローンが普及し始め、その飛行性能や自律飛行の優秀さ、そして価格の安さから・・・、“ドローンを大型化すれば人間も乗れるんじゃね?”というノリで話は大きくなっていったような気がしてなりません。

メインの用途は世界各地の主要空港と都心部間を結ぶ、比較的近距離での空中移動手段です。世界中どこでも空港と都心部を結ぶ道のりは渋滞する、という前提において、eVTOLなら渋滞知らず、と綺麗な話にまとめ上げたのです(日本では一時期、赤坂アークヒルズから成田空港間を結ぶヘリコプター・サービスがあったんですがね・・・)。また、すぐに、とは言わずとも自律飛行できれば、高給取りのパイロットも要らないので安価に空中移動ができる、と試算されています。

たしかにeVTOLが謳われているほどのスピード、航続距離、安全性を実現できて、離着陸の制約が緩和されたなら・・・、公共交通網が発達していなかったり、高速道路がなかったりする地域へのアクセスもしやすくなる、ということです。ゴルフ場に行くのも、離島に行くのも、温泉地に行くのも、都心から軽く“ひとっ飛び”です。つまりはどこでもドア的な存在に成り得る可能性を秘めています。もちろん、物流や緊急搬送需要にも応えられる、と目論んでいます。

eVTOLは「エネルギー密度を考えたら現在のリチウムイオンバッテリーでは非効率」という意見もチラホラ見かけますし、ヘリコプターの良いトコ取りをしながらヘリコプターよりも安価にってムシが良すぎる話ですが・・・、パラダイムシフトはこうして起こるもので。そんなこんなで今、eVTOL業界は賑わっています。

昨年末にニュースを賑わせたのは、スイスを拠点にeVTOLを開発しているシリウス・アビエーション(Sirius Aviation AG)です。なんでも燃料電池を搭載することで既存のeVTOLとは差別化を図ろうとしているようです。そして、売り文句はBMW傘下の設計・デザイン会社「デザインワークス」とF1で有名な「ザウバー」とのコラボレーションです。2モデルのコンセプト図を披露して、世界のニュースメディアがこぞって取り上げました

定員3名の「SIRIUS BUSINESS JET」の最大航続距離は1850㎞、巡航速度600㎞/h、パイロット1名、定員5名+最大積載量1100㎏(1.1㎥の容量)の「SIRIUS MILLENNIUM JET」の最大航続距離は1050㎞、巡航速度600㎞/hという仕様が計画されているそうです・・・。既存のeVTOLと比較すると圧倒的に優位な性能を誇り、2025年には実機のフライトを見ることができる、と発表されています。

Alfleth Engineering AG、ALD Group(中国のヴェープの会社なのか、アメリカのマシニング会社なのか定かではありません)をパートナーに迎えているそうですが・・・、シードマネーはどこから、どれだけの規模を得たのか、どんなエンジニアが在籍しているのか、詳細は一切分かりません。つくづくディスクロージャーの大切さを思い知らされます。

シリウス・アビエーションのCEO、かつてLinkedInでドイツのeVTOLメーカー、リリウムの公式アカウントに相当絡んでいました(笑)。「そろそろ上場廃止だな」とか「この動画は嘘だ」とか・・・、まぁ、ある程度は事実に即した指摘ではありましたが、なんとなく自分も同じような道を辿っているように感じられてなりません。

リリウムは別な機会に取り上げたいと思いますが・・・、謳った計画と実際に出来上がったeVTOLでの性能差が酷く・・・、SPAC上場後の株価も見事に9割減と悲惨な状況に陥っているんです。

シリウス・アビエーション、リリウムに集まった潤沢な投資に目がくらみ、自分たちは燃料電池という“新ネタ”でマネーゲームに参戦・・・、していませんように。

https://vimeo.com/901591808