オランダの造船会社Feadshipが、世界初の燃料電池(パワーセル・グループ社製)を搭載したスーパーヨット「プロジェクト821」を発表しました。従前のディーゼルエンジンを排除することで、温暖化効果ガスの排出ゼロ、出すものは水蒸気のみ、という環境に優しいスーパーヨットです。

全長約119mのプロジェクト821、建造に5年の歳月を要したそうです。5つのデッキを持ち、14のバルコニー、プール、ジャグジー、スチームルーム、ジム、図書室、リビングルームなど豪華な設備が整っています。内装はイギリスのデザイン会社RWDが手がけ、ナチュラルな素材や軽やかな色調が用いられている、とのこと。船内には、オフィス、ベッドルーム、バスルーム、ウォークインクローゼットが完備され、快適な滞在が約束されています​。さすが超富裕層の世界観です。ちなみに全長100mを超えるスーパーヨットは世界でも50艇ほどしか存在しません。

スーパーヨットの類はランニングコストが高くオーナーが幸せを感じる瞬間は・・・、新艇のデリバリー時、そして手放した時だと笑い話として語られるほどです。このサイズながらゲストの乗船人数は12名、クルーは44名が想定されています。

もとい。

燃料電池は長年、高コストゆえにスーパーヨットへの搭載は実現しにくい状況にあったそうですが、状況は変わりつつありプロジェクト821が誕生しました。液体水素を超低温(-423.4°F、-253°C)で保存するために大型の二重壁タンクが必要で、ディーゼル燃料と比較して8~10倍のスペースを必要とするため、船の設計に大きな影響を与えたんですって。プロジェクト821ではベースとなったスーパーヨットの元々の設計に13フィート(約4メートル)を全長を伸ばす必要がありましたが、大型ヨットゆえにそこまで難しくなかったとか。

太平洋横断するだけの液体水素は積載できないようですが、航続距離は最大6,500海里(約12,000キロメートル)を誇っています。燃料電池での推進は、主に港から港までの移動やホテルロード(船内の電力供給)に使用され、航続距離を稼ぐためにHVO(Hydrotreated Vegetable Oil:バイオマス)を使用するMTUジェネレーターも装備されているとのことです。この“ハイブリッド化”によりCO2排出量は9割削減できる、と謳われています。

まだまだ保管と供給に課題が残る水素燃料ですが、超富裕層が贅沢なスーパーヨットライフを通じて脱炭素を図るのは・・・、ノブレスオブラージュの一種なのかもしれません。なお、プロジェクト821で培われた燃料電池技術は、来年投入が予定されているノルウェーでの車両/客船に流用されるそうです。

スーパーヨットとは関係ありませんが中国航天科技集団がトラック積載用の新しい水素燃料タンクの開発に成功した、という話題がありました。なんでも従来の水素燃料タンクよりも有効体積を2割向上させ、コストを3割減させたそうです。これにより大型燃料電池トラックの1回あたりの水素充填で1000㎞の航続距離を実現できる、という目論見なんですって。これって、きっとスーパーヨットにも応用できますよね?