マサチューセッツ工科大学(MIT)の技術者たちは、太陽のみによって駆動する新しい列車のような反応炉システムによって、完全にグリーンでカーボンフリーの水素生成を目指しているそうです。「太陽熱化学水素(Solar Thermochemical Hydrogen:STCH)」を効率的に製造できるシステムの概念設計であり、太陽光発電を利用した水電解による水素生成とは一線を画します。これはあくまでも太陽の熱を利用して水を直接分解し、水素を発生させるものなのです。

太陽熱化学水素と仰々しい名称が与えられていますが・・・、酸化還元反応に太陽熱を用いる、というもので「画期的!」とまで驚くようなものではないかもしれません。ただ、既存の太陽熱化学水素は入射する太陽光の約7%しか水素生成に利用できていないのに対して、MITの研究チームの設計だと40%は活用できる可能性があるそうです。同じ入射光で、より多くの水素を生成できる、ひいてはコスト削減に繋がり、2030年までには1㎏あたり1ドルを目指しているんですって。

他の太陽熱化学水素生成プラント同様、MITのシステムは大量の鏡をパラボラアンテナのように組み合わせた集光型太陽熱発電所(CSP)のような既存の太陽熱源と組み合わせます。STCHシステムはその後、レシーバーの熱を吸収し、水を分解して水素を発生させます。概念的なSTCHシステムの核心は、2段階の熱化学反応です。

装置内で太陽光によって熱せられた水蒸気が金属にさらされることで蒸気から酸素を奪い、水素だけを残します。この金属の“酸化”は水の存在下で鉄が錆びるのと似ていますが、より速く起こります。水素が分離されると、酸化した(または錆びた)金属は真空中で再加熱されることで還元し、金属を再生させます。酸素が取り除かれた金属は冷却され、再び蒸気にさらされて水素が生成される、とこのプロセスは何百回も繰り返すことができるというものです。

ただ、すべてがバラ色のコンセプトではなく、他の太陽熱化学水素と同じようなハードルはあるそうです。それはコールドステーションで放出される熱をいかに再利用するか、という問題です。単に捨ててしまうのでは効率的ではない、ということです。また、金属の還元をしやすくするための真空状態をいかに作り出すか、という問題です。大規模な水素生成のために機械式ポンプで真空状態を生み出すことは・・・、やはり効率的ではない、ということです。

MITのシステムは、このプロセスを最適化するように設計されています。装置内は、円形の軌道上を走る“列車”のようなコンセプトになっています。軌道はCSPタワーのような太陽熱源の周りに設置されることが想定されています。各列車には酸化還元、つまり可逆的な錆びのプロセスを経る金属が収容される設計です。各列車は「ホットステーション」を通過し、摂氏1,500度に達する太陽の熱にさらされます。この極端な熱によって、水蒸気から酸素が効果的に引き抜かれるのです。そして、摂氏1,000度の「コールドステーション」を通ることで金属は“還元”された状態になり、蒸気から水素を取り出せるようになるんだそうです。

つまりは理論上、排熱問題と真空問題を効率化させて太陽熱の40%活用が実現できる、と目論んでいます。来年には試験装置の実装を予定している、とのことなので引き続き注視してみます。安価な水素生成は、脱炭素社会を目指すうえで大きな役割を担います。