オーストラリアの荒野には、植物の輪に囲まれた円形の裸地「フェアリーサークル(妖精の輪)」が点在しています。この不思議な地形が、実は地下から水素ガスが漏れ出している場所かもしれない、という研究成果が近年相次いで報告されています。かつては違う、もっともらしい説明がなされいたんですけどね。
さらに西オーストラリア州では、世界有数の埋蔵量を誇る鉄鉱石そのものが水素を生み出す「反応装置」である可能性も示されました。石炭やLNGの輸出国として知られるオーストラリアですが、その大地全体が次世代の燃料をひそかに生み出し続けているのです。
オーストラリア連邦科学産業研究機構(以下、CSIRO)のエマ・フレリー博士らは、西オーストラリア州のフェアリーサークルの土壌ガスを測定し、これらの地形から水素が漏れ出していることを確認しました。水素濃度は円の中心部よりも縁の部分で高い傾向があり、地下で発生したガスが周辺部から染み出していると考えられます。ただしCSIRO自身も、湧出の確認だけでは商業的に採算が取れる量が地下に蓄積しているとは限らないと慎重な姿勢を示しています。
実際のボーリング調査でも成果が出ています。南オーストラリア州のGold Hydrogen社は、Ramsay 1号地点に続き、約500メートル離れたRamsay 2号地点でも「上昇した濃度」の水素を検出したと発表し、世界初となる天然水素パイロットプラントの建設計画も打ち出しています。高濃度ヘリウムも見つかっているそうですし・・・。
またエア半島では、CSIROの支援を受けたH2EX社が衛星データや地質データから「水素が上がりやすい回廊」の地図を作成し、実際の掘削で水素の蓄積を確認しました。西オーストラリア州の南西部にある地球上で最も古い地殻(クラトン)の一つ、イルガーン地塊でも乾燥した夏に放出量が増え、雨の後は地下水位の上昇で減るという季節変動が学術研究で確認されています。
これほど各地で湧出が見られるとなると、生成の仕組みが気になります。一つの答えを示したのがエディス・コーワン大学(以下、ECU)の研究です。研究チームは、ピルバラ地域の鉄鉱石に豊富な「マグネタイト(磁鉄鉱)」に着目し、地下深くを再現した200°C&高圧の水にこの鉱物を60日間浸したところ、継続的に水素が発生することを確認できたそうです。さらに特定の溶液を注入することで生成量を人為的に増やせることも分かったとか・・・。
研究を率いたアリレザ・ケシャバーズ准教授は、オーストラリアが未開発の巨大なエネルギー資源の上に立っている可能性があり、世代を超えて活用でき、将来的には輸出も見込めるほどのポテンシャルがあると述べています。また、水素の生成量は鉱物の量だけでなく、水が新しい鉱物表面に届くための岩石内の亀裂や透過性が重要だという発見もありました。
フェアリーサークルや各地の掘削で見つかった「湧き出す水素」は、地下で化学反応が進んでいる証拠です。そしてECUが実験室で再現したのは、まさにその反応そのものだと考えられます。鉄分を含む岩石と水が地下で反応し、生まれた水素が地層の亀裂を通って上昇し、地表から染み出しているのでしょう。そう考えると、両者は同じ物語の「入口」と「出口」なのかもしれません。ECUのイグラウアー教授も、今回の実験が実験室と実際の地層の間のギャップを埋める手がかりになると述べています。
もっとも地表で水素が確認できることと、経済的に取り出して産業にすることの間には、まだ大きな距離があります。貯留層の規模の把握や採取技術の確立など課題は残りますが、荒野の地下で今この瞬間にもクリーンな燃料が生まれ続けているという事実は、脱炭素社会に向けた新しい可能性を静かに示しています。